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神戸地方裁判所 昭和63年(ワ)99号 判決

主文

一  昭和六二年(ワ)第三七二号事件につき

1  原告遠藤和夫の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告遠藤和夫の負担とする。

二  昭和六三年(ワ)第九九号事件につき

1  原告藤井俊幸、同米田義照の被告吉武達也に対する請求をいずれも棄却する。

2(一)  被告山田優治は、

(1) 原告商都交通株式会社に対し、金一一二万一三八〇円及びこれに対する昭和六〇年八月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を

(2) 原告藤井俊幸に対し、金一八四万六八八九円及びこれに対する昭和六〇年八月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を

(3) 原告米田義照に対し、金三〇八万〇二二四円及びこれに対する昭和六〇年八月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を

各支払え。

(二)  原告米田義照のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用中、原告藤井俊幸、同米田義照と被告吉武達也間の分は、全部右原告等の、原告商都交通株式会社、同藤井俊幸、同米田義照と被告山田優治間の分は、全部右被告の、負担とする。

三  この判決の主文第二項2(ただし、同(三)(2)を除く。)は、仮に執行することができる。

事実

以下、「昭和六二年(ワ)第三七二号事件」を「第一事件」と、「昭和六三年(ワ)第九九号事件」を「第二事件」と、「第一事件原告遠藤和夫」を「第一事件原告遠藤」と、「第一事件被告第二事件原告商都交通株式会社」を「第一事件被告第二事件原告会社」と、「第二事件原告藤井俊幸、同米田義照」を「第二事件原告藤井、同米田」と、「第一事件第二事件被告吉武達也」を「第一事件第二事件被告吉武」と、「第二事件被告山田優治」を「第二事件被告山田」と、各略称する。

第一  当事者等の求めた裁判

一  第一事件

1  原告遠藤

(一) 被告会社、同吉武は、原告遠藤に対し、各自金一六〇六万七七三三円及びこれに対する昭和六〇年八月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は、被告等の負担とする。

(三) 仮執行の宣言。

2  被告会社、被告吉武

主文第一項1、2同旨。

(ただし、被告会社は、仮執行宣言付判決の場合における仮執行免脱宣言の申立。)

二  第二事件

1  原告会社、原告藤井、同米田

(一) 被告山田は、原告会社に対し、金一一二万一三八〇円及びこれに対する昭和六〇年八月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を

(二) 被告吉武、同山田は、

(1) 原告藤井に対し、各自金一八四万六八八九円及びこれに対する昭和六〇年八月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を

(2) 原告米田に対し、各自金三〇八万七四〇二円及びこれに対する昭和六〇年八月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を

各支払え。

(三) 訴訟費用は、被告等の負担とする。

(四) 右(一)、(二)につき仮執行の宣言。

2  被告吉武

(一) 主文第二項1同旨。

(二) 訴訟費用は、原告等の負担とする。

3  被告山田

公示送達による呼出を受けたのにもかかわらず、本件口頭弁論期日に出頭しない。

第二  当事者等の主張

一  第一事件

1  原告遠藤の請求原因

(一) 別紙事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という。)が発生した。

二(1) 被告会社は、本件事故当時、被害車を保有し、これを運行の用に供していたものであり、又、右車輌に乗客として同乗していた原告遠藤に対し、同人を安全に輸送すべき義務を負っていた。しかるに、被告会社は、右義務を怠った。

(2) 被告吉武は、右事故当時、加害車を保有し、これを運行の用に供していたものである。

(3) よって、被告会社には、自賠法三条により、又、民法四一五条により、被告吉武には、自賠法三条により、それぞれ、原告遠藤が右事故により蒙った本件損害を賠償する責任がある。

(三) 原告遠藤の本件受傷及びその治療経過は、次のとおりである。

(1) 頭部外傷[2]型、頭蓋骨骨折、左上眼瞼挫創、下顎部挫創、腹部打撲、脾破裂、膵尾部挫滅。

(2) 富永脳神経外科病院 昭和六〇年八月七日から同年九月二一日まで入院。(四五日間)

同年九月二二日から昭和六一年八月一日まで通院。(実治療日数二二日)

(3) 昭和六一年八月一一日症状固定。

(4) 脾臓摘出、腹部、顔面、頭部の瘢痕の後遺障害残存。障害等級八級該当。

(四) 原告遠藤の本件損害

(1) 入院関係費

金三二万一五八〇円

(イ) 付添費用

金二七万六五八〇円

付添婦(二三日間、支払額全額)

金二三万一〇八〇円

配偶者(一三日間、一日当り金三五〇〇円)

金四万五五〇〇円

(ロ) 入院雑費(一日当り金一〇〇〇円、四五日間)

金四万五〇〇〇円

(2) 通院等交通費 金三万六六九〇円

(3) 休業損害 金一六万七八〇〇円

本件事故による入、通院のため欠勤を余儀なくしたことによる昭和六〇年度年末手当減額分(金八万〇一〇〇円)及び昭和六一年度夏季手当減額分(金八万七七〇〇円)。

(4) 逸失利益金二二三一万一六五七円

原告遠藤は、本件事故当時少なくとも年収金三八〇万三四二六円(五九年度年収額)を得ていたところ、本件事故による傷害を原因とする後遺障害(八級)のため少なくとも労働能力は三〇パーセント喪失しているものとみられ、症状固定時(六一年八月一日、三三歳)から六七歳までの可働年数は三四年(新ホフマン係数一九・五五四)であるから右金額となる。

(5) 慰謝料 金八〇〇万円

入通院分 金一〇〇万円

後遺障害分 金七〇〇万円

(6) 物損(眼鏡)

金五万五〇〇〇円

以上小計 金三〇八九万二七二七円

(7) 損益相殺(自賠責給付金)

金一六二二万四九九四円

右差引残額 金一四六六万七七三三円

(8) 弁護士費用 金一四〇万円

合計 金一六〇六万七七三三円

(五) よって、原告遠藤は、被告会社、被告吉武に対し、各自本件損害合計金一六〇六万七七三三円及びこれに対する本件事故日の翌日である昭和六〇年八月八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

2 請求原因に対する被告等の答弁及び抗弁

(一) 被告会社

(1) 答弁

請求原因(一)の事実、同(二)(1)中被告会社が本件事故当時被害車を保有し、これを運行の用に供していたこと、原告遠藤が右事故当時被害車に乗客として同乗していたことは認めるが、その余の事実及び主張は争う。同(3)の主張は争う。被告会社に本件事故に対する自賠法三条に基づく責任がないことは、後叙免責の抗弁で主張するとおりである。同(三)中原告遠藤が本件事故により受傷したことは認めるが、同(三)のその余の事実、同(四)、同(五)の各事実及び主張は全て争う。

(2) 抗弁(免責)

(イ)(a) 本件事故現場は、片側二車線で両側に歩道のある南北に通じる道路(幅員二二・六メートル)と片側一車線で東西に通じる道路(幅員一〇・八メートル)が交差する、信号機の設置された交差点である。

(b) 右交差点の南西角には高層建物(ビル)が建っているため、右南北道路を北進し右交差点を直進通過しようとする車輌の運転者にとって、自車左前方(右東西道路を東進し右交差点西側入口に至る路上)の交通状況への見通しは悪く、特に夜間は、自車前方の信号機の標示にしたがって走行するほかはない。

(c) 第二事件原告藤井は、本件事故直前、制限速度を遵守して、被害車を運転し、右南北道路のセンターライン寄り車線を北進して本件交差点南側入口付近に至り、右交差点内を直進通過しようとしたところ自車前方の信号機の標示が青色であったので、右信号機の右標示にしたがい引続き右交差点内を直進しようとした。その時、加害車が右交差点西側入口から同南側入口に向け、右車輌前方の信号機の標示が赤色であるにもかかわらず、これを無視し、しかも、右交差点内を極端に内回りして右折して来たため、本件事故が発生した。

(d) 右事実関係から明らかなとおり、本件事故は、加害車を運転していた第二事件被告山田の信号無視、極端な内回り右折の一方的かつ重大な過失に起因するものであって、第二事件原告藤井には、右事故発生に対する過失がない。

(ロ) 被告会社では、自社保有車輌の点検、乗車運転手に対する管理監督等に充分な注意を払い、第二事件原告藤井に対しても、その例に洩れない。

(ハ) 被害車には、本件事故当時、構造上の欠陥も機能の障害もなかった。

(ニ) よって、被告会社には、自賠法三条但書により、原告遠藤に対する本件損害賠償責任がない。

(二) 被告吉武

(1) 答弁

請求原因(一)の事実は全て不知。同(二)(2)中被告吉武が本件事故当時加害車を保有していたことは認めるが、同(2)のその余の事実及び主張は争う。同(三)、(四)の各事実は全て不知。同(五)の主張は争う。

(2) 抗弁(運行支配の喪失)

(イ)(a) 被告吉武は、昭和六〇年二月頃、加害車を購入し、これを主に通勤用に使用していた。同人は、通常勤務から帰宅する午後九時三〇分頃から翌朝出勤する午前八時三〇分頃までの間、右車輌を同人が居住する肩書住所地団地内の駐車場に駐車させて置いた。同人の右車輌の右使用管理状況は、右車輌の購入以来変わらなかった。

なお、右車輌の鍵は、右購入時より一個あるだけで、同人が常にこれを管理しており、同人が右鍵の、所謂スペアキーを作ったことは全くなかった。

しかして、右団地内駐車場は、右団地建物四棟に囲まれた通路部分の北側に設けられており、約一〇台の車輌が駐車できるよう黄線で区画されている。右団地住民であれば誰でも右駐車場を利用でき、これを利用しようとする者は、右団地自治会にあるクラブに一か月金五〇〇円の利用料を支払い、正当な利用者であることを示すステッカーの交付を受け、これを駐車車輌に貼って、右一区画を利用するものである。そして、右駐車場管理は、右クラブが行う。

被告吉武も、本件事故当時、右利用方法によって、右駐車場の一区画を利用していた。

なお、右団地は、その周囲が塀で囲まれ、他の土地から明確に区分されており、客観的には右団地住民以外の者の自由な立入りを禁止する構造になっている。

(b) 被告吉武は、本件事故までに二回、第二事件原告米田に加害車を貸与したが、右貸与は、いずれも右駐車場において被告吉武が直接右米田に対し右車輌の鍵を手渡すという方法で行われ、被告吉武は、右車輌の返還に当り必ず右車輌の鍵を右米田から受取っていた。

被告吉武は、右米田とそれ程親しい間柄でなかったから、出来るだけ右車輌を貸与したくなかったが、同人から執拗に右貸与の要求を受け、仕方なくいやいやながら、右要求に応じ、七、八回の右要求の内右のとおり二回貸与したものである。

(c) 被告吉武は、本件事故日である昭和六〇年八月七日、都合で勤務先にはバスで出勤し、加害車を前叙駐車場に駐車させていた。勿論、右車輌のドアーロックはされ、右車輌の鍵は同人の自宅机中に保管されていた。

ところが、被告吉武は、同日午後八時頃、右米田から電話で、加害車の貸与の申入れを受けた。被告吉武は、前叙のとおり右米田に対する右車輌の貸与を快よく思っていなかったので、右申入れについても明確に断わった。ただ、右米田が、その際、強引に右車輌に乗って行く旨申向けたので、被告吉武としても、売り言葉に買い言葉で、乗って行けるものなら乗って行って見ろという応答をしてしまった。もとより、同人は、右車輌の鍵は前叙場所に保管してあるから、右米田が右車輌を勝手に運転することはないと安心していた。

しかし、被告吉武は、同日午後九時過ぎ頃勤務先から帰宅して初めて、加害車が右駐車場に駐車してないことに気付いた。しかし、同人は、右米田が右車輌を窃取した可能性もあるので、親しくないとはいえ知人である同人が警察署に逮捕されるのを見るに忍びず、右車輌の紛失を管轄警察署に届出るのを差控えていた。

(d) 右米田は、本件事故以前被告吉武から前叙のとおり加害車の貸与を受けた時、被告吉武に無断で右車輌の所謂スペアキーを作り、本件事故当日、これを利用して右車輌を無断で運転し乗り廻していた。

被告吉武は、勿論右スペアキーの存在を全く知らなかった。

(e) 被告吉武は、本件事故後、管轄警察署から本件事故の連絡を受け初めて右事故発生を知り、同人が、右警察署で加害車を確認した際、右車輌に右スペアキーが付けられているのを発見して、初めて右車輌が右スペアキーで運転されたことも知った。

(ロ) 右主張の事実関係から、被告吉武は、本件事故当時、加害車の運行を指示制禦すべき立場になく、即ち、同人は、当時、右車輌に対する運行支配を喪失しており、右車輌の運行支配は、当時第二事件原告米田や同事件被告山田に帰属していたというべきである。

よって、被告吉武には、自賠法三条本文に基づく本件損害賠償責任がない。

3 抗弁に対する原告遠藤の答弁

(一) 被告会社分

抗弁事実(イ)(a)は認める。同(b)は不知。同(c)中第二事件原告藤井が本件事故直前被害車を運転して本件南北道路を北進して本件交差点南側入口付近まで至ったこと、右車輌が引続き右交差点内を直進しようとしたこと、その時加害車が右交差点西側入口から同南側入口に向け右折して来たこと、右両車輌が衝突して本件事故が発生したことは認めるが、同(c)のその余の事実は否認。被害車の前方信号機の標示が青色であったことを認め得る証拠はない。同(d)の主張は争う。本件事故発生時間からして、加害車の運転者第二事件被告山田としても、全く交通法規無視の暴走運転をしていたとは考えられず、本件事故の発生には、第二事件原告藤井の左方安全確認が不十分であったこともその一因であったというべきである。したがって、右藤井が右事故発生に対し無過失であったということはできない。同(ロ)、(ハ)は全て争う。同(ニ)の主張は争う。右藤井に右過失が存在する以上、被告会社に自賠法三条但書による本件免責は成立しない。

(二) 被告吉武分

抗弁事実(イ)(a)中被告吉武が昭和六〇年二月頃加害車を購入し通勤等に使用していたことは認めるが、同(a)中のその余の事実は全て不知。同(b)中第二事件原告米田が本件事故以前に被告吉武から加害車を二回貸与されたことは認めるが、同(b)のその余の事実は否認。右米田は、被告吉武から右のとおり加害車の貸与を受けたほか右車輌に同乗してドライブに出かけ、右米田もその途中で交替して右車輌の運転をしたこともあった。又、被告吉武と第二事件被告山田との間にも、それ以前に、右車輌の貸借があった。かくして、被告吉武と右米田との間には、加害車をめぐってかなり親密な関係が存在したものである。同(c)中右米田が本件事故日に被告吉武に対し電話で加害車の貸与方を申出たこと、被告吉武が右米田の右申出を都合が悪いとの理由で断ったことは認めるが、同(c)のその余の事実は全て否認。被告吉武が右米田の右申込みを断わったのは、右車輌の貸与を一切拒否するというのではなく、偶々当日は都合が悪いから貸与できないとの趣旨であった。被告吉武と右米田の間柄は、右米田が被告吉武に右車輌の貸与を申込むと、被告吉武は支障がない限り何時でも気持良く右車輌を右米田に貸与するといったものであった。同(d)、(e)の各事実は全て争う。同(ロ)の主張は争う。原告遠藤の主張する右事実関係からすれば、仮に被告吉武に本件事故当日右米田に対し加害車を貸与したくない事情があったとしても、被告吉武は、本件事故当時なお加害車に対する運行支配を有していたというべきである。

よって、被告吉武の抗弁は、全て理由がない。

二  第二事件

1  原告会社、同藤井、同米田の請求原因

(一) 本件事故が発生した。

(二)(1) 被告吉武は、本件事故当時、加害車を所有していた。

(2) 被告山田は、本件事故直前、加害車を運転して本件交差点を構成する本件東西道路を東進して右交差点西側入口付近に至ったが、その際、自車前方信号機の標示が赤色であるのを無視し、かつ、極端な内回りで、右交差点南側入口に向かい右折した過失により、本件事故を惹起した。

(3) よって、被告吉武には、自賠法三条により、被告山田には、民法七〇九条により、原告等が本件事故により蒙った本件損害を賠償する責任がある。(ただし、原告会社の損害については、被告山田のみの責任。)

(三) 原告等の受けた物損及び受傷の内容

(1) 原告会社

原告会社所有にかかる被害車の前部(フロントバンパー、ボンネットフード、エンジン等の各部分)大破。

(2) 原告藤井

頭部外傷[1]型(前頭部擦過傷を伴う)、左上腕・左手関節部・左手・両膝関節部及び両下腿挫傷兼擦過傷、前頭部打撲創、頸部捻挫、左上腕・前腕挫創、左右各膝部各挫創、腰椎捻挫、外傷性大後部神経痛。

(3) 原告米田

頭部外傷[2]型、右上眼瞼、右前額部、右耳前部、右頬部、左上口唇、左前腕部の各挫創、右眼球損傷の疑い、外傷性頸部症候群、眼瞼裂傷、肥厚性瘢痕。

(四) 原告等の本件損害

(1) 原告会社

(イ) 被害車の修理代金

金八四万一三八〇円

(ロ) 休車損害 金一八万円

(ハ) 弁護士費用 金一〇万円

合計 金一一二万一三八〇円

(2) 原告藤井

(イ) 治療費 金一万五二二〇円

ただし、労災請求分は除く

(ロ) 通院交通費 金二万七三六〇円

240円×114日=27360円

(ハ) 入院雑費 金四万五一〇〇円

1100円×41日=45100円

(ニ) 休業損害 金一一五万七八五一円

789444円÷90日×132日=1157851円

(ホ) 賞与減 金三〇万四四六七円

冬 金二二万五八三一円

夏 金七万八六三六円

(ヘ) 慰謝料 金一七五万円

(a) 入通院分 金一〇〇万円

加療経過

昭和六〇年八月七日

多根病院 通院 一日

昭和六〇年八月八日

医療法人三和会永山病院通院 一日

自昭和六〇年八月九日至同年九月一八日

同病院 入院 四一日

自昭和六〇年九月一九日至同六一年四月一八日

同病院 通院二一二日間(内診療実日数一一三日)

原告藤井の本件入通院分慰謝料は金一〇〇万円が相当である。

(b) 後遺障害分 金七五万円

(ト) 逸失利益 金二九万三八三一円

(789444×4)×0.05×1.861=293831

原告藤井は、本件後遺障害として障害等級一四級該当の認定を受けている。

小計 金三五九万三八二九円

(チ) 損害の填補

(a) 自賠責より傷害分として

金一一四万六九四〇円

(b) 自賠責より後遺障害分として

金七五万円

小計 金一八九万六九四〇円

右差し引き残額

金一六九万六八八九円

(リ) 弁護士費用 金一五万円

合計 金一八四万六八八九円

(3) 原告米田

(イ) 治療費 金一二〇万三九二二円

(ロ) 入院雑費 金九万一三〇〇円

1100円×(77日+6日)=91300円

(ハ) 休業損害

金一八〇万一六二二円

646000円÷90日×251日=1801622円

(ニ) 入通院慰謝料 金一一〇万円

加療経過

自昭和六〇年八月八日至同年八月一三日

富永脳神経外科病院 入院 六日

自昭和六〇年八月一三日至同年一〇月二八日

摂南病院 入院 七七日

自昭和六〇年一〇月二九日至同年一一月一一日

同病院 通院一四日間(内診療実日数二日)

昭和六〇年一一月二五日

富永脳神経外科病院 通院 一日

自昭和六〇年一一月一八日至同六一年四月一四日

大正病院 通院一四八日間(内診療実日数七四日)

原告米田の本件入通院分慰謝料は金一一〇万円が相当である。

小計 金四一九万六八四四円

(ホ) 損害の填補

(a) 大正海上火災保険株式会社より

金一二〇万円

(b) 安田火災海上保険株式会社より

金一八万九四四二円

小計 金一三八万九四四二円

右差引残額 金二八〇万七四〇二円

(ヘ) 弁護士費用 金二八万円

合計 金三〇八万七四〇二円

(五) よって、原告等は、本訴により、原告会社において、被告山田に対し、本件損害金一一二万一三八〇円、原告藤井において、被告等に対し、各自本件損害金一八四万六八八九円、原告米田において、被告等に対し、各自本件損害金三〇八万七四〇二円及び右各金員に対する本件事故日である昭和六〇年八月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する被告等の答弁及び抗弁

(一) 被告吉武

(1) 答弁

請求原因(一)の事実は全て不知。同(二)(1)の事実は認めるが、同(3)の主張は争う。同(三)、(四)の各事実は全て不知。同(五)の主張は争う。

(2) 抗弁(運行支配の喪失)

第一事件における被告吉武の抗弁と同じであるから、これをここに引用する。

よって、被告吉武には、自賠法三条本文に基づく本件損害賠償責任がない。

(二) 被告山田

被告山田は、前叙の事情で、原告等の請求原因に対して答弁しない。

3  被告吉武の抗弁に対する原告藤井、同米田等の答弁

抗弁事実(イ)(a)中被告吉武が本件事故以前に加害車を所有し使用していたことは認めるが、同(a)中のその余の事実は全て争う。同(b)中原告米田が右事故以前に被告吉武から加害車を二回貸与されたことは認めるが、同(b)のその余の事実は争う。被告吉武と右米田や第二事件被告山田とは、中学校時代の同級生であり、右事故当時も遊び友達の仲であった。右米田や右山田は、右事故以前被告吉武から借受けた加害車を使ってドライブに出かけたことがあったし、又、被告吉武は、右事故前、右山田に対しても、加害車を貸与したことがあった。同(c)中右米田が右事故当日被告吉武に対し電話で加害車の貸与方を申出たこと、被告吉武が一旦右申出を断わったこと、しかし、同人が、右米田から、それでも右車輌に乗って行く旨申向けられ、乗って行けるものなら乗って行ってみろとの旨応答したこと、被告吉武が、帰宅後、右車輌の不存在に気付いたこと、同人が、右車輌の不存在を管轄警察署に届出ていないことは認めるが、同(c)のその余の事実は全て争う。右米田は、右山田とともに被告吉武に対し右電話をしていたものであるところ、右米田は、最終的に被告吉武に右貸与方を申出たものであり、同人の右応答を聞き、重ねて、それでは右車輌に乗って行ってやる旨応答した。被告吉武と右米田、右山田間の、右会話のやり取りからして、その時点で、被告吉武と右米田、右山田間に、右車輌に関する貸借関係が成立したというべきである。又、被告吉武は、右車輌の不存在に気付きながら、翌日右山田に電話で聞き尋ねれば良いと考えそのまま放置しておいた。同(d)中右米田が被告吉武から加害車の貸与を受けた時所謂スペアキーを作ったことは認めるが、同(d)のその余の事実は争う。同(e)の事実は全て争う。同(ロ)の主張は全て争う。原告藤井、同米田の以上の主張から、被告吉武は、本件事故当時、右山田も右米田とともに加害車を運行していることを知っていた。即ち、被告吉武は、同人の友人である右山田、右米田が加害車を運行することを容認していたというべきである。

よって、被告吉武は、加害車の保有(所有)者としてなお本件事故に対する責任を免れることはできない。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

第一  第一事件関係

一  原告遠藤の被告会社に対する請求

1  請求原因(一)の事実(本件事故の発生)、同(二)(1)中被告会社が本件事故当時被害車を保有し、これを運行の用に供していたこと、原告遠藤が右事故当時被害車に乗客として同乗していたこと、同(三)中原告遠藤が本件事故により受傷したことは、当事者間に争いがない。

なお、原告遠藤は、被告会社の本件責任原因の一つとして民法四一五条違反を主張するが、単に右会社の安全輸送義務違反を主張するのみでそれ以外に右法条所定の要件に該当する事実の主張をしない。

よって、原告遠藤の右主張は、この点において既に理由がなく採用できない。

2  そこで、被告会社の抗弁(免責)について判断する。

(一) 抗弁事実中本件事故現場が片側二車線で両側に歩道のある南北に通じる道路(幅員二二・六メートル)と片側一車線で東西に通じる道路(幅員一〇・八メートル)が交差する信号機の設置された交差点であること、第二事件原告藤井が本件事故直前被害車を運転して本件南北道路を北進して本件交差点南側入口付近まで至ったこと、右車輌が引続き右交差点内を直進しようとしたこと、その時加害車が右交差点西側入口から同南側入口に向け右折して来たこと、右両車輌が衝突して本件事故が発生したことは、当事者間に争いがない。

(二) 〈証拠〉を総合すると次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。

(1) 本件交差点の東西南北角には高層建物が存在し、本件南北道路を北方へ直進する車輌の運転者にとっても、本件東西道路を東方へ向け西進もしくは右交差点南側入口ヘ向け右折する車輌の運転者にとっても、自車前方左右の見通しは、全く不良である。

右交差点の右両交差道路は、いずれもアスファルト舗装路で平坦であり、右交差点の信号機は、本件事故当時作動していた。

また、右交差点付近における制限速度は、時速四〇キロメートルであり、夜間における右付近の明暗度は、やや明かるい程度である。

なお、本件事故当時の天候は晴で、右事故現場付近の路面は乾燥していた。

(2) 第二事件原告藤井は、本件事故直前、被害車を時速約四〇キロメートルの速度で本件南北道路のセンターライン寄り車線上を走行させ、本件交差点南側入口南方に至り、右入口から南方約三七・六メートルの地点付近で自車前方の対面信号機の標示を確認したところ、右標示は青色であった。そこで、右藤井は、右標示にしたがい右交差点内を通過して直進を続けるべく、右車輌を右速度で進行させ、右交差点南側入口南方約七・二メートルの地点に至った時、突如加害車が、かなりの高速度で、被害車の左前方から極端な内回り(右交差点南西角に沿い、被害車の走行していた本件南北道路のセンターライン寄り車線に向かう形。)で右折して来た。

右藤井は、危険を感じ、咄嗟に自車に急ブレーキをかけハンドルを右に切ったが間に合わず、被害車の左前部と加害車の前部が衝突し本件事故が発生した。

なお、加害車の対面信号機の標示は、右事故当時、赤色であった。

(3)(イ) 被告会社においては、毎朝運転手に対する始業点呼を実施し運行管理者から各運転手に対し注意事項を指示し、就中信号機標示の確認等交通法規の遵守につき厳しく指導して、毎日の安全運転の確認をしている。

又、右会社では、年二回運転手に対する健康診断を実施し、運転手の健康管理に配慮している。

右会社は、本件事故当時、右藤井も、右会社勤務の運転手として右管理下に置いていた。

なお、右藤井は、右会社に就職して以来、本件事故規模の交通事故に遭遇したことがなかった。

(ロ) 被告会社では、その所有車輌につき一年毎の車検を実施して三名の検査員がそれを確認し、更に、毎月全車輌中から車輌番号を指定して入庫させ、エンジンオイル、ブレーキ等の点検を実施し、加えて、各車輌につき三か月毎にブレーキライニングとブレーキオイルが洩れていないかを点検している。

日々の車輌点検としては、運転手が業務に出発する前に行う灯火類ブレーキ警報器等の始業点検、各運転手の右点検に基づく点検表の作成、整備係による右点検表の確認が行われている。

(4) 被害車は、本件事故当時、平常どおり正常に走行していたもので、ブレーキ、ハンドル等に安全を阻害する異常は、全く存在しなかった。

(三) 右認定各事実に基づけば、

(1) 本件事故は、第二事件被告山田の、本件交差点内右折における信号機の標示不確認、右折方法不適切及び安全不確認等の一方的過失によって惹起されたものであって、第二事件原告藤井には、右事故発生に対する過失がなかったというべきである。

蓋し、信号機の標示する信号によって交通整理が行われている交差点を通過する車輌の運転者は、互にその信号にしたがわなければならないのであるから、このような交差点を直進する車輌の運転者は、特別の事情がない限り、信号を無視して交差点に進入して来る車輌があることまで予想して、交差点の手前で停止できるように減速し、左右の安全を確認すべき注意義務を負うものでない(最高裁昭和五二年二月一八日第二小法廷判決交通民集第一〇巻第一号一頁参照。)ところ、本件においては、右説示にかかる特別の事情の主張・立証がないからである。

(2) 被告会社の本件事故に関する運転者の選任監督義務違反も被害車の点検整備義務違反もない。

(3) 被害車に本件事故当時構造上の欠陥又は機能の障害もなかった。

(四) 右認定説示を総合し、被告会社には、自賠法三条但書に基づく免責が成立し、同会社には、本件事故に対する損害賠償責任がないというべきである。

よって、被告会社の抗弁(免責)は、全て理由があり、原告遠藤の右会社に対するその余の主張については、その判断の必要を見ない。

二  原告遠藤の被告吉武に対する請求

1  〈証拠〉を総合すると、本件事故の発生(請求原因(一)の事実)、原告遠藤が本件事故により受傷したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

2  被告吉武が本件事故当時加害車を保有していたことは、当事者間に争いがない。

3  そこで、被告吉武の抗弁(運行支配の喪失)について判断する。

(一) 抗弁事実中被告吉武が昭和六〇年二月頃加害車を購入し通勤等に使用していたこと、第二事件原告米田が本件事故以前に被告吉武から右車輌を二回貸与されたこと、右米田が本件事故日被告吉武に対し電話で右車輌の貸与方を申出たこと、被告吉武が右米田の右申出を都合が悪いとの理由で断わったことは、当事者間に争いがない。

(二)(1) 〈証拠〉を総合すると、次の各事実が認められる。

(イ) 被告吉武は、加害車を自分の給料を貯めて購入したところ、右車輌を使用しない時、右車輌を同人が居住する肩書住所地団地内の専用駐車場(ただし、右駐車場の広さの関係から駐車不能の場合は、やむなく右団地内路上に駐車することもあった。なお、右駐車場は、右団地内住民によって結成されたクラブによって管理され、利用者は一定の料金を支払っていた。)に駐車させ、右車輌の鍵を同人宅内の同人の机の中に保管していた。

しかして、右車輌の鍵は、被告吉武が右車輌を購入した時以来一個しかなく、同人が右鍵の所謂スペアキーを作ったことは全くない。

また、同人は、右車輌を右駐車させる場合、必ずドアーロックをしていた。

(ロ) 被告吉武は、第二事件原告米田、同事件被告山田と中学校時代の友人であったものの右中学校卒業後交際はなかった。

ところが、右米田と右山田とは、被告吉武が加害車を購入した後である昭和六〇年三月頃から、被告吉武をその自宅に訪ね、右米田が被告吉武に加害車の貸与方を申出るようになった。

被告吉武は、本件事故以前、右米田から、七、八回加害車の貸与方を申込まれこれを断わっていたが、右米田と右山田から交々執拗強引に右貸与方を申込まれて断り切れず、嫌々ながら同年六月に一回、同年七月中旬頃に一回合計二回右米田に加害車を貸与した。

しかして、被告吉武が右米田に右貸与したいずれの場合も、被告吉武本人が必ず加害車の駐車場所まで赴き、同所で、右米田に対し、右車輌の鍵を手渡し、右鍵を早く返えしてくれるよう念を押していた。そして、被告吉武は、右米田から、必ず右鍵の返還を受け、同人に右鍵を預け放しにして置くようなことをしなかった。したがって、右米田は、被告吉武が右鍵を同人宅のどの場所に保管しているか知り得なかった。

もっとも、被告吉武は、右米田に加害車を右二回だけ貸与した以前右米田と右山田と三人で被告吉武の肩書住所地団地から神戸市までドライブをし、右ドライブの間、右三人が、右車輌の運転を交替でしたことがあった。

しかし、右三人でドライブをしたのは、一回だけであった。それ以後、右米田と右山田が、被告吉武に対し、前叙のとおり頻繁に右車輌の貸与方を申込むようになった。

(ハ) 被告吉武は、本件事故日の午後八時半頃、同人の勤務中に右米田から電話で加害車の貸与方の申込みを受けた。しかし、被告吉武は、当時右車輌を前叙駐車場に駐車させていたが翌日勤務のため使用する必要があり、右米田に右車輌を貸与してもし同人が翌日までに右車輌を返還してくれなければ困ると考え、「いるからあかん。」と明確に右米田の右申込みを断わった。

右米田は、これに対し、「乗って行くぞ。」と応答したが、被告吉武は、右車輌の鍵が前叙場所に保管されており右米田が右のとおり述べても右車輌の鍵がない以上その実行はできないと考え、「乗って行けるなら乗ってみいや」と申向けた。

ところが、右米田は、「ほんなら乗って行ってやらあ」といって、右電話を切った。

(ニ) 被告吉武は、当日、勤務先から帰宅して初めて、加害車が駐車場所に駐車していないことに気付いた。同人は、これを見て、右電話でのやり取りから右米田がエンジン直結で右車輌のエンジンをかけ無断で運転して行ったなと思ったが、同人との仲を考え、管轄警察署へその旨の届出をしなかった。ただ、被告吉武は、その際、右米田は右山田と前叙のとおり親しい間柄なので翌日右山田に電話で右米田のことを尋ねれば同人の所在も判明するだろうと思っていた。

ところが、被告吉武は、本件事故後、浪速警察署からの連絡で、右事故の発生を知り右警察署に赴いたが、同所で加害車を確認した際、右車輌にスペアキーが付けられているのを発見して初めて、右車輌が右スペアキーで運転されたことを知り驚いてしまった。

もとより、被告吉武は、右米田が右スペアキーを作ったことも全く知らなかったし、同人から前叙電話を受けた際にも、同人が右スペアキーを所持していることを全く言葉の端にも洩らさなかったので、右事実を知ることもなかった。

したがって、被告吉武にとっては、右米田が右スペアキーで加害車を運転する等予想もつかず、その防止策等思いも及ばなかった。

又、被告吉武は、右米田が前叙電話した際、同人の傍に右山田がいるとは思わず、右米田も右山田同伴の事実を告げなかったので、本件事故後まで、右山田が加害車に乗車ししかもこれを運転した等知り得ず、又、その予想もできなかった。

(ホ) 右米田は、同年七月中旬頃、被告吉武から加害車を借受けた際、同人から右車輌の鍵を借りられない場合スペアキーを作って置いたら何時でも右車輌に乗ることができると考え、右車輌のスペアキー一個を作り、これを所持していた。

なお、右米田は、被告吉武に対し、右スペアキー製造の事実を全く秘匿していた。

そして、右米田は、本件事故日の午後九時頃、右山田とともに加害車が駐車してあった前叙駐車場に赴き、何の目的もなくただぶらぶらドライブする目的で、しかも、何時まで返還するとの確たる意思もなく、ドアーロックして駐車中の加害車のドアーを右スペアキーを使用して開けてこれに乗り込み、右スペアキーを使用して右車輌のエンジンを始動させて乗り出した。

右米田と右山田は、右目的で右車輌を乗り出したが、最初右米田が右車輌の運転をしていたところ、途中で右山田と右運転を交替し、右米田が、右車輌の助手席で寝込んでいる時、本件事故が発生した。

なお、右事故現場は、被告吉武宅のある前叙団地から相当遠距離にある。

又、右事故が同日午後一一時五分頃発生したことは、前叙のとおり当事者間に争いがない。

(2) 右認定に反する第二事件原告米田本人の供述部分は、前掲証拠と対比してにわかに信用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(三) 右認定各事実に基づくと、確に被告吉武と本件事故当時加害車を運転していた第二事件被告山田との間には、右認定にかかる程度の友人関係の存在を認めることができる。しかしながら、それ以上に、雇傭関係、身分関係等特別の関係に基づいて、被告吉武が右山田に対し何等かの支配関係を有していたものでないし、これに、右認定にかかる、加害車の無断乗り出しの態様、目的及び返還予定の内容、右車輌の駐車場所と本件事故現場との距離、右車輌の無断乗り出しと右事故発生との時間的関係、被告吉武の右車輌の鍵に対する管理状況等を総合すると、被告吉武には、右車輌の管理に対する過失はなく、客観的に見て、同人が右山田に対し右車輌の運転につき暗黙にも承認を与えたものではないというべきである。

したがって、被告吉武は、本件事故当時、加害車に対する運行支配を喪失しており、同人は自賠法三条所定の運行供用者としての責任を負わないものと解するのが相当である。

よって、被告吉武の右抗弁(運行支配の喪失)は、全て理由がある。

右認定説示に反する、原告遠藤のこの点に関する主張は、前叙認定にかかる一連の本件事実関係に照らして、全て理由がない。

(なお、運行利益は、運行支配を判断するうえでの一徴憑であると解するのが相当であるから、本件でも、被告吉武の本件責任原因の有無を判断するのには、右認定説示のとおり同人の加害車に対する右運行支配の帰属を判断すれば足りる。)

4  原告遠藤の被告吉武に対する本訴請求は、右認定説示の点で既に理由がない。

第二  第二事件関係

一  原告藤井、同米田の被告吉武に対する請求

1(一)  本件事故の発生(請求原因(一)の事実)が認められることは、前叙第一事件において認定したとおりであるから、右認定をここに引用する。

(二)  被告吉武が本件事故当時加害車を所有していたこと(請求原因(二)(1)の事実)は、当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すれば、原告藤井、同米田が本件事故により受傷したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

2  そこで、被告吉武の抗弁(運行支配の喪失)について判断する。

(一) 抗弁事実中被告吉武が本件事故以前に加害車を所有し使用していたこと、原告米田が右事故以前に被告吉武から加害車を二回貸与されたこと、右米田が右事故当日被告吉武に対し電話で加害車の貸与方を申出たこと、被告吉武が一旦右申出を断わったこと、しかし、同人が、右米田から、それでも右車輌に乗って行く旨申向けられ、乗って行けるものなら乗って行って見ろとの旨応答したこと、被告吉武が、帰宅後、右車輌の不存在に気付いたこと、同人が右車輌の不存在を管轄警察署に届出ていないこと、右米田が、被告吉武から加害車の貸与を受けた時、右車輌の所謂スペアキーを作ったことは、当事者間に争いがない。

(二) 被告吉武の右抗弁に対する判断は、第一事件における同人の原告遠藤に対する抗弁(運行支配の喪失)に対する判断と同じであるから、右判断をここに引用する。

よって、被告吉武は、第二事件においても、自賠法三条所定の運行供用者としての責任を負わないものと解するのが相当であり、同人の右抗弁(運行支配の喪失)は、全て理由がある。

右認定説示に反する、原告藤井、同米田のこの点に関する主張は、前叙認定にかかる一連の本件事実関係に照らして、全て理由がない。

3  原告藤井、同米田の被告吉武に対する本訴各請求は、右認定説示の点で既に理由がない。

二  原告会社、原告藤井、同米田の被告山田に対する請求

1  本件事故の発生(請求原因(一)の事実)、被告山田の本件責任原因事実(同(二)(2)の事実)の存在、即ち本件事故が同人の本件交差点内右折における信号機の標示不確認、右折方法不適切及び安全不確認の過失によって惹起されたものであることは、第一事件において認定説示したとおりであるから、右認定説示をここに引用する。

よって、被告山田には、民法七〇九条により、原告会社、原告藤井、同米田が本件事故により蒙った本件損害を賠償する責任がある。

2  原告等の本件損害

(一) 原告会社

(1) 被害車の修理費

金八四万一三八〇円

(2) 休車損害 金一八万円

(イ) 〈証拠〉を総合すると、被害車の前部左寄りバンパー、ボンネット、左側前フェンダー等が、本件事故により大破し、その修理費金八四万一三八〇円、休車損害金一八万円合計金一〇二万一三八〇円を要したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(ロ) 右認定に基づき、原告会社の右修理費金八四万一三八〇円、右休車損害金一八万円合計金一〇二万一三八〇円を本件事故と相当因果関係に立つ損害(以下、本件損害という。)と認める。

(二) 原告藤井

(1) 原告藤井の本件受傷の具体的内容とその治療経過

〈証拠〉によれば、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。

(イ) 頭部外傷[1]型、前頭部打撲創、頸部捻挫、左上腕、前腕、右膝部、左膝部各挫創

(ロ) 多根病院 昭和六〇年八月七日通院。(一日)

永山病院 同年八月八日通院。(一日)

同年八月九日から同年九月一八日まで入院。(四一日間)

同年九月一九日から昭和六一年四月一八日まで通院。(実治療日数一一三日)

(ハ) 昭和六一年四月一八日症状固定。

後遺障害等級一四級該当の後遺障害が残存。

(2) 原告藤井の本件損害

(イ) 治療費 金一万五二二〇円

〈証拠〉によれば、右原告の治療費中永山病院分金一万五二二〇円が残存していることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

よって、右治療費金一万五二二〇円も本件損害と認める。

(ロ) 入院雑費 金四万五一〇〇円

右原告の本件入院期間が四一日であることは、前叙認定のとおりであり、弁論の全趣旨によれば、同人が右入院期間中雑費を支出したことが認められるところ、右入院雑費は、一日当り金一一〇〇円の割合による合計金四万五一〇〇円を本件損害と認める。

(ハ) 通院交通費 金二万七三六〇円

右原告が合計一一四日通院したことは、前叙認定のとおりである。

しかして、〈証拠〉によれば、右原告は、右通院のため一日当り金二四〇円の交通費を支出したことが認められる。

よって、右通院交通費合計金二万七三六〇円も、本件損害と認める。

(ニ) 休業損害 金一一五万七八五一円

〈証拠〉によれば、右原告は、本件事故当時原告会社に勤務し、右会社から得た昭和六〇年二月ないし四月まで三か月分の給与の合計額が金七八万九四四四円であること、右会社が、右原告において本件事故による受傷治療のため欠勤した昭和六〇年八月八日から同年一二月一七日までの合計一三二日間、右原告に対し、給与を全額支給しなかったことが認められる。

右認定事実に基づけば、右原告の本件損害としての休業損害は、金一一五万七八五一円と認められる。(円未満四捨五入。以下同じ。)

(78万9444円÷90)×132=(約)115万7851円

(ホ) 賞与減 金三〇万四四六七円

〈証拠〉を総合すると、右原告は、前叙欠勤のため、原告会社から、昭和六〇年下期賞与金二二万五八三一円、昭和六一年上期賞与分金七万八六三六円を減額されたことが認められる。

右認定事実から、右原告の本件賞与減額合計金三〇万四四六七円も、右原告の本件損害と認める。

(ヘ) 後遺障害による逸失利益

金二九万三八三一円

(a) 右原告に障害等級一四級該当の後遺障害が残存すること、同人の本件損害算定の平均基礎収入が一か月金二六万三一四八円であることは、前叙認定のとおりである。

(b) 〈証拠〉によれば、右原告は現在における実収入は、本件後遺障害のため一か月約三万円減少していることが認められ右認定事実によれば、右原告は、現在、本件後遺障害のためその労働能力を喪失し、しかもそれによる経済的損失、即ち実損害を蒙っているというべきである。

しかして、右原告の右労働能力の喪失率は、右認定事実に所謂労働能力喪失率表を参酌し、五パーセントと、右労働能力喪失期間は二年と、それぞれ認めるのが相当である。

(c) 右認定各事実を基礎として、右原告の本件後遺障害による逸失利益の現価額をホフマン式計算方法にしたがって算定すると、金二九万三八三一円となる。

(新ホフマン係数は、一・八六一)

(26万3148円×12)×0.05×1.861=(約)29万3831円

(ト) 慰謝料 金一七五万円

(a) 入通院分 金一〇〇万円

右原告の本件入通院期間は、前叙認定のとおりである。

右認定事実に基づけば、右原告の本件入通院分慰謝料は金一〇〇万円と認めるのが相当である。

(b) 本件後遺障害分 金七五万円

右原告に障害等級一四級該当の後遺障害が残存することは、前叙認定のとおりである。

右認定事実に基づけば、右原告の本件後遺障害分慰謝料は金七五万円が相当である。

(チ) 以上の認定説示から、右原告の本件損害の合計は、金三五九万三八二九円となる。

(3) 損害の填補

右原告が本件事故後自賠責保険から本件傷害分金一一四万六九四〇円、後遺障害分金七五万円の各保険金支払を受けたことは、右原告の自認するところである。

そこで、右受領金合計金一八九万六九四〇円は、本件損害の填補として、同人の前叙損害合計金三五九万三八二九円から控除されるべきである。

右控除後の右損害は、金一六九万六八八九円となる。

(三) 原告米田

(1) 原告米田の本件受傷の具体的内容とその治療経過

〈証拠〉を総合すると、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。

(イ) 頭部外傷[2]型、右上眼瞼、右前額部、右耳前部、右頬部、左上口唇、左前腕部各挫創、右眼球損傷の疑い。

(ロ) 富永脳神経外科病院 昭和六〇年八月八日から同月一三日まで入院。(六日間)

摂南病院 同年八月一三日から同年一〇月二八日まで入院。(七七日間)

同年一〇月二九日から同年一一月一一日まで通院。(実治療日数二日)

富永脳神経外科病院 同年一一月二五日通院。(実治療日数一日)

大正病院 同年一一月一八日から昭和六一年四月一四日まで通院。(実治療日数七四日)

(ハ) 昭和六一年四月一四日症状固定。

(2) 原告米田の本件損害

(イ) 治療費 金一二〇万三九二二円

〈証拠〉によれば、右原告の本件受傷の治療費として合計金一二〇万三九二二円を要したことが認められる。

よって、右治療費合計金一二〇万三九二二円を本件損害と認める。

(ロ) 入院雑費 金九万一三〇〇円

右原告の本件入院期間が八三日であることは前叙認定のとおりであり、弁論の全趣旨によれば、同人が右入院期間中雑費を支出したことが認められるところ、右入院雑費は、一日当り金一一〇〇円の割合による合計金九万一三〇〇円を本件損害と認める。

(ハ) 休業損害 金一七九万四四四四円

(a) 〈証拠〉を総合すると、右原告は、本件事故当時、訴外西澤商店に土木作業員として就労し、給与として昭和六〇年五月ないし七月までの三か月分合計金六四万六〇〇〇円を得ていたこと、右原告が本件事故の翌日である昭和六〇年八月八日から本件症状固定日の昭和六一年四月一四日までの合計二五〇日間休業して右収入を得ることができなかったことが認められる。

右認定に基づけば、右原告の本件休業損害は、金一七九万四四四四円となる。(円未満四捨五入。以下同じ。)

(64万6000円÷90)×250=(約)179万4444円

(ニ) 慰謝料 金一一〇万円

右原告の本件入通院期間は、前叙認定のとおりである。

右認定事実に基づけば、右原告の本件入通院分慰謝料は金一一〇万円と認めるのが相当である。

(ホ) 以上の認定説示から、右原告の本件損害の合計は、金四一八万九六六六円となる。

(3) 損害の填補

右原告が本件事故後保険金合計金一三八万九四四二円を受領したことは、右原告の自認するところである。

そこで、右原告の右受領金合計金一三八万九四四二円は、本件損害の填補として右原告の前叙損害金四一八万九六六六円から控除されるべきである。

右控除後の右損害は、金二八〇万〇二二四円となる。

3  弁護士費用

原告会社分金一〇万円

同 藤井分金一五万円

同 米田分金二八万円

〈証拠〉によれば、原告会社、同藤井、同米田は、被告山田が本件損害の賠償を任意に履行しないため本訴の提起を弁護士である右原告等訴訟代理人に委任し、その際相当額の弁護士費用を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟追行の難易度、その経緯、前叙請求認容額に鑑み、本件損害としての弁護士費用は、原告会社において金一〇万円、原告藤井において金一五万円、同米田において金二八万円と認めるのが相当である。

4  結論

以上の認定説示から、原告会社は、被告山田に対し、本件損害合計金一一二万一三八〇円及びこれに対する本件事故日であることが前叙認定から明らかな(以下同じ)昭和六〇年八月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、原告藤井は、被告山田に対し、本件損害合計金一八四万六八八九円及びこれに対する昭和六〇年八月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、原告米田は、被告山田に対し、本件損害合計金三〇八万〇二二四円及びこれに対する昭和六〇年八月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、各支払を求める各権利を有するというべきである。

第三  全体の結論

以上の次第で、第一事件における原告遠藤の被告会社、被告吉武に対する本訴各請求は、いずれも全て理由がないから、いずれもこれ等を棄却し、第二事件における原告藤井、同米田の被告吉武に対する本訴各請求は、いずれも全て理由がないから、いずれもこれ等を棄却し、同事件における原告会社、原告藤井の被告山田に対する本訴各請求は、全て理由があるから、これ等を全て認容し、同事件における原告米田の被告山田に対する本訴請求は、右認定の限度で理由があるから、その範囲内でこれを認容し、その余は、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文但書、九三条を、第二事件における仮執行宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鳥飼英助)

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